*[TV]ピート・ベストのドキュメンタリー

ビートルズがよく知られている4人のメンバーになるまでには、2人ほどのメンバーの出入りがあったことは、既に知られている。「バック・ビート(字幕スーパー版) [VHS]」という映画では、ジョンの親友ステュアート・サトクリフにスポットが当てられていたが、8/22の夜、BS-2で放送していたのはピート・ベストにスポットが当てられていた。

ステュアートの脱退理由は、アストリット・キルヒャーの伝記「ビートルズが愛した女―アストリット・Kの存在 (幻冬舎文庫)」でも、バンド活動よりも恋人であったアストリットとの生活や芸術活動への興味の方へ移っていったことが原因だったようだが、ピート・ベストについてはどうもハッキリしない。なぜ、デビュー寸前になって解雇されたのだろうか?

一般に知られているピート・ベストの解雇理由は、ピートのドラマーとしての資質、リズムが不安定だと言うことだ。特に、アレンジャーのジョージ・マーティンから、その点で嫌われていたという説が新聞などにも取り上げられて、これには本人も非常に傷ついていたようだった。

番組では、ハンブルクリバプールのクラブ関係者の証言からも録音スタッフからも、この点は完全に否定された。確かにリズムが不安定になることはあったようだが、ステージ活動を問題なく続けているドラマーならば、それが特に問題になるようなことは無いと言う証言の数々だった。それに考えてみれば、リンゴ・スターに代わったところで、そういう問題が解消されたようには、とても思えないと証言した人もいた。(笑)ごもっとも

私が特に注目したのは、番組のクライマックス、マネージャーのブライアン・エプシュタインがピートに解雇を言い渡したときの回想の場面。ブライアンがそれを告げた時、代わりのドラマーがリンゴ・スターであることも言ったらしい。つまり、他のメンバーが了解しなければ、リンゴへの交替は不可能であることから、ピート自身は他のメンバーから追放されたことを悟ったようだった。

もう一つ興味深かったのは、ピートが解雇された日に控え室に入っていったクラブのスタッフの証言、「殴られて目の周りを真っ黒にしていたジョージ・ハリスンとその横に緊張で固まっていたリンゴがいた。ジョージは、『ピートがクビになったんだ』と辛そうに言った」ということ。この件に関して、ジョージとリンゴの意思は働いていないのは明らかだ。ジョンとポールのうち、どちらかと言えばジョージの兄貴格のジョンが手を出した可能性は十分ある。

また、ピートはドラマーとしてはかなり人気のあった男で、持ち歌も何曲かあって、彼が歌うときはマイク・スタンドがドラミングの邪魔になる(当時のマイクスタンドにはブームが付いてないので、ドラマーは垂直に立ち上がっているマイクスタンドを股座の間に入れて、ドラムを叩きながら歌わねばならなかった。しかもダンスに自信のあるピートは、ヴォーカルをとるときは踊ったりもしたので、ドラムを誰かが替わりにしなくてはならなかった)ので、ポールがドラムを担当したことも興味深い。ピートの歌のとき、彼の姿が見やすいように他のメンバーが全員しゃがんで演奏してこともあったらしく、これで他のメンバーから嫉妬を買ったのではないかとも言われている。

ブライアン・エプシュタインも曲者だ。ゲイ趣味のあったブライアンは、ピートに興味を持っていたようだが、ピートは彼を相手にしなかった。ただ、そういうことよりも、ビジネス的旨味を嗅ぎ付けてビートルズに近づいたブライアンには、カフェを経営しているピートの母親の存在の方が気になっていたと思う。ビートルズのメンバーは随分と彼女の世話になっていたようである。

ビートルズが世界的な人気になった後、「ビートルズになれなかった男」としてTVでピートがインタビューを受けた時も、インタビューを受けているピート本人の発言さえ遮って答えている場面さえあり、彼らの活動への介入の一端を窺わせた。ただ、息子がこういう立場に立たされて、女性でしかも、経営者の立場にあったほどの人なら、おそらく黙っていられない人が殆どではないだろうか?ついつい感情的になってしまった点は割り引いて考えるべきかもしれない。

以上を総合して私が推理するピート・ベストの解雇理由は、「リーダーの地位を不動のものにしたいジョン」「ピートが歌うたびに後ろに引っ込むのが嫌だったポール」「ピートの母親のマネージメント面における介入を排除したかったブライアン」の3者の利害が一致したことにあると思う。

ビートルズは、ジョンとポールがお互いの才能を認め合ったときからバンド活動が始まったといわれる。年下のジョージは味噌っかすで、最初のハンブルク遠征には連れて行ってもらえず、その立場上、バンドの意思決定に影響を及ぼすとは思えない。ピートは人気と実力はあっても、ジョンとポールにとっては所詮は余所者だ。ビートルズは、ジョンとポールのバンドであり、その2人の仲が決裂したときに解散した。その決裂した理由も、死亡したブライアンの後任のマネージャーの人選にあったといわれていることでも分かるとおり、「ピートと彼の母親を排除し、ジョンとポールがバンドの中心となり、ブライアンにマネジメントの全権を委任する必要だあった。」

ピート・ベストは、これらの経緯を本にまとめていたらしい。

ビートルズになれなかった男 (光文社文庫)

ビートルズになれなかった男 (光文社文庫)

それにしても、ビートルズのメンバーは、この件に関しては口が重い。メンバー中、リンゴはこの件に関与していなかったことを考えれば、今となっては証言できるのはポールしかいなくなった。まさに、時の流れを感じてしまう。できれば、ポール自身の偽らざる言葉(反論)を聞きたいと思うのは、私一人ではないはずだ。