*[フラメンコ]フラメンコとは如何なる音楽か?

私事だが、本日、ある女性に、異常に嫌われていることを知った。
まあ、好かれてはいないかなとは思ってたんだけど、ああいう風に態度を示された場合、その確認のためのメールや電話などしたところで、ストーカー扱いされてしまうのがオチだ。ココは、それを厳粛に受け止めるしかない。そして、忘れよう。

そんな訳で気が滅入ってるんだけど、何か書いてみることで救われることもあるかもしれない。フラメンコのことをつらつらと書いてみようかと思う。

フラメンコとは如何なる音楽か?
そう聞かれることは少なくない。どう答えるべきだろう?多面的で非常に引き出しの多い音楽なのだ。まあ、他の音楽でもそうなのだろうが、例えばジャズにしても、黒人霊歌から進化してかなりの年月が経ってしまっており、簡単に「黒人霊歌から発展したダンスのための音楽」などとは答えることが出来ないのはご存知だろうと思う。

それと同様に、「フラメンコといえば、ジプシーの音楽だよね」などと言われても、「そういう要素もあるし、別な要素もある」としか言えない。スペインに昔からある音楽の要素もあれば、アフリカや中近東の影響を受けたと思われる要素も見られる。そして、中南米から逆輸入したと思われる要素もあるのがフラメンコだ。

なぜ、そんな事になったかというと、歴史と地理を思い出して欲しい。今でこそ、マドリード(カスティリア地方)やバルセロナ(カタルーニャ地方)でも見たり聞いたりできるフラメンコだが、フラメンコが盛んに演じられるのは、主にアンダルシア地方である。このスペインの南端の地方というのが重要な理由だろう。

そこにあるのは、今はイギリス領だがジブラルタル海峡。港町のアルヘシーラスが近くにある。我らがPaco de Luciaの出身地として、日本人がやたら行くのでも有名だ。「何しに行くんだ?モロッコに渡るのか?」なんて聞かれたりするんだそうだ。

そう、対岸はモロッコイスラム教徒の国だ。欧州におけるイスラム教徒最後に根拠地がこのアンダルシア地方にあった。(グラナダだったか、コルドバだったかは忘れた)つまり500年近く前までは、イスラム教徒の土地だったのだから、その影響は色濃く残っている訳である。また、これだけ近くにあると、たとえ異教徒の国でも、経済的・文化的交流は止めることは出来ないだろう。サンブラやダンサ・モーラなんて形式の曲は、アラビアの民謡かと思うほどだ。また、一部のフラメンコの歌のメロディーには、イスラム教徒の祈りの時間を告げる「アザーン」そっくりな唸りを聞かせてくれる。毎日、イスラム寺院から聞こえてきていたのだから、影響を受けるのも無理は無い。

イスラム教徒を排除したスペインは、次は海外に目を向ける。ヴェネツィアに支配された東方貿易より有利な交易路を探す必要から、アフリカ南端を回るインド航路を開拓したり、ヤマッ気たっぷりのコロンブスの野望を利用するだけ利用して、世界中に広大な植民地を獲得した。キューバからコロンビアから金銀財宝・香辛料・食料とともに、音楽も入ってくる。グァヒーラやコロンビアーナなどという形式の音楽がそれだ。そういう音楽が入ってくるのは、カディスのような大きな港町だ。

カディス辺りには、もともと陽気なメロディーの音楽が奏でられていたらしい。そんなところに、アジアから欧州の東の方を経て放浪してきた連中がやって来た。中南米からいろんな文化が入り込む以前にこの辺に来た彼らは、運悪くスペイン国王による移動禁止の命令を受けてしまう。「放浪の民」が定住を余儀なくされる。今まで賑やかに歌って踊って、去っていった奴等を毎日見ることになる。

彼らは、アジアから東欧にかけて広がる哀調を帯びたメロディーに、12拍で一区切りの独特のリズムで刻む音楽を持ち込んだ。アクセントの位置が3,6,8,10,12拍目という、ちょっと覚えにくいが一旦身に着くと病み付きになるリズムで、妖しげに身をくねらせて女たちが踊る。歌の歌詞がまた絶妙だ。明け透けに恋愛を歌い上げたり、人生における深い悩みや孤独を嘆いたもの、また時には、ふざけて卑猥な歌詞で受けを狙う。これが、女たちの妖艶な踊りと絶妙にマッチする。面白いじゃん、これ、祭りや宴会の出し物で使おうかとなる。こうして両者の文化が交じり合い、哀調を帯びたソレアや陽気なアレグリアスが生まれる。

無論、男も踊る。女たちの身をくねらせる踊りに対抗して、現地では男の中の男と認められている闘牛士の身振り手振りを模した感じだ。背筋をピンと伸ばして、自信に満ちたポーズで踊る。ファルーカのリズムで板の間の床に靴音も高く足を踏み鳴らせば、見ている者たちでさえ興奮を覚えてくる。

誰かが面白いことを始めた。哀愁を帯びたソレアのリズムをどんどん速くしていったらどうなるだろうか?アクセントの位置が1,4,7,9,11拍目とリズムの裏表が逆になりはしたが、意外に面白い。嘆きとか悲しみとかの歌詞は似合わないが、感情の高ぶりを軽い調子で表現してみてはどうだろうか?それとも、仲間のうちの誰かを歌でからかってみようか?あ、からかわれて怒ったヤツが、仕返しに自分の悪口を歌詞にして歌い始めた。これは許せん。

2人の男が睨み合ったのが踊り用の板の上、酒が入っているせいか、周りの仲間たちが無責任に囃し立てる。怒って興奮してるけど、なんか楽しい。これを踊りで表現しよう、ドンドンドンと相手に歩み寄る。ところが相手は、「たった3回か?」とばかりにドドドドドドッとこまかく地団太を踏む。周りは大喜びでこれに賞賛を送る。「負けてなるか」と地団太にターンまで加えると、オレーの掛け声が上がる。もう喧嘩じゃなくて、踊り較べだ。男も女も交じり合って、激しく踊りだす。誰かが言う、「こういうのブレリア(からかい)とでも名づけようか?」。

ってな具合で、フラメンコは出来上がって行ったのではないかと思う。(ホントかぁ?)

でも、この時点では、フラメンコにはギターは使われていなかったのだ。手拍子(パルマ)・指はじき(ピト)・靴音(サパテアード)そして歌(カンテ)に掛け声だけだったのだ。

長いから、今日はココまで