*[フラメンコ] フラメンコとはいかなる音楽か?3 「ギターの編入

さて、フラメンコの成立の初期にギターは寄与していなかったことを、前に述べたと思う。ギターもそうだが、パリージョ(カスタネット)が使われるようになったのも、今世紀に入ってからといわれている。
パリージョはともかく、ギターがなかなか使われなかったのは、ギターの弦のせいじゃないかと思う。ギターの弦は消耗品で、高音弦は現在ではナイロンが使われているが、以前は羊の腸だったそうだし、その周りに針金を巻きつけて太く伸びやかな音を出している低音弦などは、大量生産されるまではなかなか高価だったのではないかと思う。

それゆえ、切れてしまっては大変とばかりに、あまりかき鳴らしたりは出来なかったと思う。ギターはかき鳴らすだけではなく、爪弾くことも出来るのだが、爪弾くだけでは、激しい踊りのときには使えない。そういえば、骨董品的価値の古さのフラメンコギターを見ると、ボディーが小さくて、高価な工芸品のようだけれども、華奢で壊れやすそうに見えるのも、そんなところに理由があるのではないだろうか?

今世紀に入って使われだしたギターだが、用途はもっぱら踊りと歌の伴奏のみである。サビーカスだったか、メルチョール・マルチェーナだったかのレコード(アナログ盤時代)の解説書には、「踊りの伴奏で20年、歌の伴奏で20年の経験を経て、ようやく一流と認められる」などと書いてあり、ソロでギターを弾くなどということは想定外のような書き方である。まして、いきなり大学のサークルでギターのみのフラメンコを始めた私などは、こんな一節に面食らったものだ。なにしろ、当時の私たちの頭には、踊りや歌の伴奏の方こそが想定外だったのだ。

さて、フラメンコにギターが取り入れられてからしばらくすると、やはり名手といわれる人たちが出て来る。伴奏のみだった頃には、Paco de Luciaの名曲にもその名を残すマエストロ(巨匠)パティーニョがいたし、はじめてレコード録音をし、ロンダ地方の唄でソロ・ギターの名演奏を残したマノロモントーヤが出てくると、すぐにニーニョ・リカルドやメルチョール・マルチェーナが現れる。特にリカルドの演奏には霊感があるといわれ、録音の中に吹き込まれてしまった彼の唸り声とともに親しまれたものだ。

この辺の人がソロでギターを弾き始めたのには、レコード盤と蓄音機などのプレーヤーの発達が後押しをしていると思われる。まったく、レコード盤(アナログ)となると、音しか再生しないから、踊りでいくら指先の動きに気を使っても、聞こえるのは手拍子と足音しかない。そのかわり、唄やギターにとっては、ようやく日の当たる場所が出られた感じがしたのではないだろうか。

そんな時代の最初の大スターが、サビーカスだった。カルメン・アマヤ舞踊団について南米をツアーしているうちに人気が出たサビーカスは、ギタリストとして初めて豊かになった人ではないだろうか?今でもそうだが、一座のプリマはあくまでも踊り手・踊り子なのだから、報酬もそのように配分されたはずだ。

サビーカスの成功は、多くのレコードを残したことにあると思う。これによって、座長にピン撥ねされない収入を得たのだろう。南米・北中米を旅しながら、サビーカスはフラメンコ以外のいろんな音楽に触れ合う。レコード録音をした頃には、フラメンコのみならず、様々な音楽の演奏の録音も残し、実際発売されもした。

こういう成功例は、後続の若いギタリストたちを刺激した。サビーカスのようにやれば、ギタリストでも稼げるということと、フラメンコの奏法で様々な音楽を取り入れてみてはどうだろうか?という刺激である。そんな時、Paco de Luciaが現れたのである。