スペイン語

多言語交流のクラブに参加して、3ヶ月が過ぎた。
今回、私は参加しなかったが、大人の男連中に限定した韓国との交流ホームステイに行ってた連中が帰国したらしい。


ここ数ヶ月、彼らはこの交流が目的で、必死にハングルに磨きをかけてきていたので、ファミリーの通常活動のときでも、ファミリー内にはハングルがあふれていた。

今回の交流に参加しない私などは、この状態では、ファミリー内を多言語が飛び交う環境にしようと言う、このクラブの意図に反すると思い、スペイン語を中心とした欧州言語を懸命に交えていた。

そのために、ハングルの習得が後回しになり、他のメンバーに較べて、私はハングルの習得が遅れている。とは言うものの、私は最も後からメンバーになったのだから、本来ならどの言語でも他のメンバーから遅れていても仕方が無いはずなのだ。

ところが、ハングル偏重に抵抗していたために、特にスペイン語などは、他よりもかなり進んでしまったようだ。

というのもだ。

8月の新潟県の全ファミリー合同のキャンプ(ああ、このイベントにも参加できなかったなあ)から帰ってきたリーダーのKが、「これから、このファミリーの共通の目標は、『オドロキ…』の16番のスペイン語を全員が歌えるようになることね」などと言い出したことに始まる。

ここで、このファミリー独特の言い回しの解説をせねばならない。

『オドロキ…』(フルネームはちょっと書くのに恥ずかしい)というのは、このクラブの会員の言語交流の体験談をまとめた本とCDである。その「16番」と言うのは、CDの16番目に収録されたもので、ある会員とケニヤからの留学生との交流の体験が語られている。「スペイン語」というのは、これらの体験談が日本語だけでなく、英語、韓国語、スペイン語など他多くの言語にに翻訳されているもののうちのスペイン語版のことを指している。

そして、これが最もこのクラブの特徴とも言うのが、「言語を歌う」という独特の言い回し。簡単に言えば、文章や会話を暗誦する事なのだが、ただ字面を丸暗記するだけではない。各言語独特のメロディーやリズムみたいな抑揚、強弱、緩急、間の取り方をなるべく真似るのである。意味や文法は後回し……というか、意味は日本語版があるし、日本語版を殆ど聞かなくとも、英語などと合わせて覚えていくと、おおよその意味が掴めてくる。また、文法などは、後からだって学ぶ事は無いと思う。それで、済むと思う。

さて、ここで重要なのは、Kは「目標」といったが、「歌える」事が決して最終目標ではない。それぞれの言語で交流するのが目的だ。そのために、できるだけたくさんの言葉や言語を頭の中を通過させたり、溜め込む事が要求される。暗誦は、その手段として行うのだ

さらに、ファミリーの通常の活動の中で、自分が暗記してきた部分を発表する時間がある。このとき、周りのメンバーは、発表者と一緒に口真似をする。この体験が、記憶の中に澱のように溜まっていくのである。一見非効率だが、その反面無理が無いのである。

また、発表者には、途中で良い澱もうが、間違えようが、終わると同時に「すご〜い」という称賛の言葉が浴びせられる。最初は、ここで引いちゃうのだが、しばらくすると、言われたくて、暗誦に励む自分に気がつくようになる。多くのメンバーが、学校の英語教育で受けたトラウマを抱えているようで、この「批判されない」「矯正されない」このシステムというよりは、雰囲気作りは、とてもよく考えられていると思う。

賢明なる人は、それだけでは話せるようにはなれないと思うだろう。

実は、そうなのだ。
最終的には、ホームステイで鍛えられるのだが、なかなかそれには踏み出せない。しかし、このクラブの活動には、他にもホームステイの受け入れやら、留学生とのウェルカム・パーティーでの交流やら、外国人と会話する事を恐れなくするためのプログラムが、矢継ぎ早に企画されるのである。そこで、言語を吸収しようとする、余所のファミリーのメンバーの真剣な姿を目の前にすると、非常に刺激を受ける。

大手の英会話塾のような派手なTVCMこそやらないが、この辺が、25年かけて全国で3万人の会員数にまでなっただけの事はあるよなと思う。

さて、「オドロキ…」のスペイン語の16番に戻る。

ネイティブスピーカーが話す速度でも3分38秒にも及ぶ、まあ、暗誦するには、かなりタフな大作である。スペイン語版の場合、とても耳に引っかかりやすい、特徴のある言葉が並んでいるという話だったので、iPodからトランスミッターでカーステに飛ばして、合わせて「歌って」みると、恐ろしい速さなのに気がついた。

しかし、スペイン語の巻き舌は、なぜか私の口に合うのである。デタラメでもいいから、試しに巻けるだけ舌を巻いて「歌って」みると、意外にイケそうな気がしたのだ。聞きながら声に出してみるだけでも、けっこう脳がヘロヘロになるのが、不思議に心地よい気がした。

そんな事を数十回繰り返してみた。だんだん聞こえて、記憶に残る言葉が増えてきた感じがした。(後で、テキストで確認したら、酷い勘違い箇所だらけだったけど)数ヶ月間これを積み重ねて、今、終盤に入りかけている。

韓国に交流ステイに出かける前のファミリーの日に、出稽古に来た人たちに聞いてもらったら、「帰ってきたら、俺もスペイン語をやろう」といってくれた。彼の奥さんのLも、出稽古に来てくれそうだし、そうなるとこのファミリーも多くの言語であふれて、面白くなりそうだ。