上棟式


13日の日曜日、従兄弟が新築する家の上棟式が執り行われた。この家は、母の実家であり、私も子供の頃から頻繁に訪れていた家である。

前日の午後から荒れ始めた天気は、近隣の山々の山頂が冠雪するほどの荒れっぷりを見せ、わが町でもずうっと雨が降り続いた。我が家から見て南側にある従兄弟の住む街は、如何許りかと南の空を眺めると、暗雲垂れ込める場所と雲の散れている場所が混在するという、甚だ判断に苦しむ様子だったが、いざ市の境を越えて街の中に入ると、意外にも路面は濡れておらず、乾いている。ということは、降り止んでしばらく時間が経っているという事だ。


式の開始時間の1時間前に到着してしまった。好天に恵まれておれば、如何様にも費やせる1時間だが、悪天候の中である。どうやって過ごすのだろうか?と心配していたら、家を取り壊して建て替えている間に荷物を保管している空き家を借り上げているらしく、皆、そこにストーブを持ち込んで休んでいた。ストーブは持ち込めたものの、そもそもが空き家である。水は無し、電気は無し、薄暗いところでストーブに寄り固まっているだけなのだが、寒風吹きすさぶ中で、する事も無く立ち尽くすよりはマシというものだ。

我々施主の一家と親族が上棟式で蒔く食べ物の準備をしていると、目ざとく見つけた近隣の住人たちが、手に手にスーパーのレジ袋を携えて集まってきた。

私がカメラを持ち出して、始まる前の様子を撮っていると、親族の男子は皆上に上がれという。上がると撮影できない。でも、一度ぐらいは蒔く立場にも立ってみたい。施主の姉さんに、カメラの使い方の簡単な説明をして、上がる事にした。

上がってみると、棟梁の指示で、大工さんたちが骨組みだけの二階に板を渡して動き回りやすくしてあった。「団子蒔き」というのを行う地域と行わない地域があるらしいが、この辺は行う地域である。ただし蒔かれるのは、既に団子ではなく、パンや小袋入りの駄菓子・カップ麺。僅かながら饅頭も蒔かれる。ウチの店にも、時々、こういう注文が入るからありがたいものである。これらを詰めた箱の蓋が開けられ準備が整うと、棟梁が祝詞を唸り始めた。そして、2礼2拍手の後、一斉に蒔き始めた。

辺りは大騒ぎである。ところが風が強くて、なかなか思うように、投げても飛んでいかない。特に、菓子袋とカップ麺は風で押し戻されて帰ってくる。それもこれもみんな投げ落として巻き終ると、下界はそれまでの争いを恥ずかしがるように、照れ笑いで溢れている。

「どうも、ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。」かっこよく、上から挨拶した従兄弟だったが、直後に、紙縒りを結んだ5円玉を一緒に蒔くのを忘れていたのに気がついた。一瞬にして顔色に焦りの色を見せる彼は、カミさんを走らせて取りに行かせる。

異変に気がついた住民の一部が戻ってきた。とりあえずは、親族だけで現金を拾いあうという失態だけは逃れたか。慌てて届けられた5円玉を蒔き終えて、ようやく上棟式を終えた。

降りてみると、写真は殆ど撮られていなかったようだ。何しろ、彼女も蒔かれたものを拾おうと一所懸命だったのだから、無理も無い。暗くなり始める4時を回った時間での撮影ということでストロボのスイッチをONにしていたのだが、おかげで手ブレも無く撮れていた。

不思議な事に、あれだけ荒れていた天気も、風は強かったとはいえ、一粒の雨も降らずに終える事が出来た。前夜は、親子3人で、神棚に天気を祈ったという。

完成は、来春という。