ディープインパクトの復活

さて、いろんな説が飛び出した「禁止薬物事件」だが、馬券を売っていた欧州でのほうが、「処分は仕方ないが、悪質なものではない」という受け止め方なのに、馬券を売っていないので被害者が全くいないはずの日本での方が、この事件をスキャンダラスに騒ぎ立てていたように思う。


池江調教師のコメント「鼻炎薬を鼻に噴霧している時に、馬が暴れて馬房内に薬が飛び散ってしまった。それが馬の体内から検出される危険のある時期にまで、馬房の中に残留しているとは知らずに、同じ馬房で係留してしまった」これを信ずるかどうかは、聞いた人それぞれで違うと思う。私は、一応信じようと思う。

ディープインパクト凱旋門賞で3着に敗れたとき、欧州のメディアは、この馬のローテーションを批判した。「アジアからの遠征馬がぶっつけで凱旋紋章で勝とうなどとは、欧州の競馬をナメ過ぎている」とばかりにである。

しかし、禁止薬物として検出される可能性にある薬を使った直後なら、使いたくとも使えなかったということであり、それ故、その薬の効果も、成分も、残留期間も知った上で、なおかつ薬物を使ったままレースに出て、検査を通るなどと考えるはずは無い。どうも、この様に最初から「悪意」よりは「不注意さ」を感じる事件なのに、悪意と考えたがる奴等が多すぎるんだよね。

そういう雰囲気が特にメディアに流れていたもんだから、自ずと、それは、この馬の状態を見るときの印象にネガティブな影響を与えていたと思う。私が参考にする日刊スポーツの穴男・鈴木氏などは、「今まで抑える調教をしてきた馬に抑えない調教をした事が、この馬を暴走させる可能性も」などと不安を煽り立てていた。「競馬予想TV」の井内氏も同様の不安を掲げていた。

まあ、今となってはあと知恵でしかないが、凱旋門賞菊花賞のレース振りを見ても分かるとおり、この馬が暴走する可能性があるのは、スタート前に妙に落ち着いてしまい、「らしくもない好スタート」を切って、前方に壁となる馬がいなくなるような好位置で前半の競馬を進めようとしたときだと思う。気合が乗ってしまったときのディープインパクトは、暴走するのではなくて、スタートを煽って後手を踏んでしまうのだ。そして、その方が前半の競馬をスムーズに進められるのだ。

記憶の良い方なら、「じゃあ、スタート直後に躓いて落馬しそうになった皐月賞のスタートはどうなんだい?」と反論するかもしれないが、最初から「躓くかも」と想定に入れておけば、よほど酷く躓かない限り、落馬は回避できるのではないかと思う。実際、皐月賞のスタート直前に、武騎手はその恐れをうすうす感じていたようなのである。だから、あんな酷い躓きでも落馬を回避できたのだと。

まあ、「あれほどに躓かれると不利だけど、普通に出遅れてくれる分には、ディープインパクトに関しては絶好のスタートになる」と武騎手は読んでいたと思う。その証拠は、スタート後の動きに現れる。ディープインパクトを観察しながら走ろうとするウィジャボードデットーリ騎手がディープインパクトの直後に着けようとするのを「しんがりは譲らない」とばかりに、手首を返してディープの行く気を抑えてしまった武騎手の動きがそれだ。今日は、意図的に出遅れて、そのまま後方で競馬したかったのだと思う。

強烈な末脚とともに、行きたいときに仕掛けられるのも、ディープインパクトの魅力ではないだろうか。ウィジャボードの外からあわせるように仕掛けたのが3角過ぎ。先に仕掛けられたウィジャボードは、馬群の中に突っ込む感じ。その状態のまま直線を向くまで追わないものだから、ウィジャボードは荒れた内側の馬場を走らざるを得なくなる。

直線、蛇行し始めたコスモバルクを上手く交わして先頭に踊り出たのが、3歳馬のドリームパスポート。並びかけるかと思いきや、徐々に外斜行するディープインパクト。すかさず差し返してくるウィジャボードの勢いが凄かった。やはり、デットーリが乗ったときのこの馬は一味違った。しかし、馬場の良い外側に進路を取ったディープインパクトがその後もう一度伸びて、最後は鞭を担いで手綱を抑える余裕を見せてゴールイン。

ディープインパクトの強さもさることながら、武豊の調教段階からの周到な読みや駆け引きに唸らされるレースだった。

私の馬券は、ハーツクライを中心に買っていたために、縁遠いレースでもありました。そういえば、こちらの馬の方こそ7月以来のぶっつけ本番のレースだったというわけで、そういう読みを忘れてしまっていたわけで、自分に未熟さを感じます。