歌うオーナメント

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クリックしてもらえば分かると思うが、Marching Bandと名前はついてはいるものの、基本的なコンセプトは6人によるハンドチャイムの演奏ではないかと思う。半音ずつ音程の異なるチャイムを2つずつ6人で持てば、1オクターブ12音階が再現されると言うわけだ。

この1オクターブという狭い音域で35曲ものクリスマス・ソングを演奏しようと言うのだから、僅か1オクターブの音域でしか声の出なかったA地M理に次々とヒット曲を供給したM田K一もびっくりの音の出るオーナメントなのである。別々の音色の楽器で行進曲が奏でられるわけではない。マーチング・バンドと呼ぶ事が憚られるのにはそんな理由がある。

ただ、A地M理の歌に較べて、はるかに豊かな表現力を要求される名曲ばかりだから、どうしたって1オクターブでは収まらない。しかも、メロディーだけを奏でるのではなくて、伴奏や和音、中には対位法で奏でられる曲もあるのだ。そういう時は、オクターブ下の音が代用される。普通、カラオケなどでそういう歌い方をすると、カラオケ・スナックの席から、ズルッと滑り落ちそうになるものだが、よほど編曲が巧みなのだろうか、それほど聞き苦しくも無い。

得意先の店先でこれを見つけた私は、別にディズニー・フリークでもないのに、ネットで検索を繰り返し、ようやくヤフオクで出品されているのを見つけたのでだが、その年は、それをうっかりと落札し損ねてしまった。それが、今年の12月の初めに、もう一度ヤフオクを覗いてみたら、なんと出品されているのである。入札履歴に一つも痕跡が残っていないところを見ると、この商品への関心は極めて少ないように思えた。チャンスと思って残り時間を確認して、その日はウォッチリストに加えて、ページを閉じた。

翌日、残り数時間になった頃、ウォッチリストからこのページに入ってみると、相変わらず誰も入札者がいない。何年か前のうっかりミスを避けるためにも、ここは一応入札しておくべきだろうと思い。最低希望金額分だけ入札してみた。そして、それがそのまま落札金額となったのである。

出品者から落札御礼のメールが届いたのは、その次の日だった。上記のこの商品に対しての私のエピソードも含めて、丁寧に返信したところ、相手方は「とてもよい人に落札してもらえた」と大変喜んでくれた。出品者の話では、その人も「とても気に入っていたのだが、住んでいる部屋が狭くて、持て余してしまった」とあった。得意先の店先で見かけたときには、そんなに大きなオーナメントには見えなかったのだが、なんで「部屋の大きさ」が気になるのだろう?と送金して、商品が届くまで疑問に思っていたのだが、実際に動かしてみて、その理由が判明した。

以下は、この品物の欠点を述べたものだが、私は、これを落札した事を別に悔いているわけではない。とても気に入っているのである。したがって、これを間違っても出品者への非難などと誤解してもらっては困るので、予め断っておきたい。それどころか私は、この人にとても感謝している。それでも、実際に使ってみると、なるほど、これが現在、製造されていない理由も見えてくるので、そんなところを推し量りながら、綴ってみたいと思う。

まず、前述の通り、これはハンドチャイムを基本コンセプトにしているのだが、ハンドチャイムと違うのは、ハンドチャイムは鐘の中に棒がぶら下がっており、強く振れば強い音がなり、弱く降れば弱い音が出る。揺すれば、トレモロのような同じ音が続いて鳴り、強弱をつけることも出来る。

一方、Mickey's Marching Bandはといえば、キャラクター人形の両脇やや後方にそれぞれ二つの鐘が固定され、人形が持つ棒でこの鐘を外から叩く事で音が出る。連打はある程度できるが、例えば、有名なクリスマス・ソングの”クリスマスの七日間”の冒頭の”タタタン、タタタン、タタ♪”の部分程度の同じ音階の連打しか出来ないと思って良い。

問題は、叩く強さである。真鍮製の鐘は、そんなに力を入れなくとも音は出るのだが、電気信号で人形を回転させて叩くには、信号を送ってから音が出るまでの時間が短ければ短いほど、タイミングの調整がしやすいのである。その為、人形の回転速度は、なかなかに鋭い。いきおい、鐘を叩く力は大きくなるので、音は大きい。弱く叩かせたいと思っても、これの構造から考えるとそのためには速度を遅くするしかないのだ。速度を遅くすると、鐘を叩くタイミングは滅茶苦茶になり、リズムが取れなくなる。音楽として成り立たせるためには、メリハリの強弱よりもタイミングを重視せざるを得ないと言うわけである。

前の持ち主(出品者)が「部屋の大きさ」を気にしたのは、これが為である。六帖の茶の間で鳴らしたら、TVの音も聞こえないだろう。壁の薄い集合住宅ならば、苦情さえ来るかもしれない。出品者の断腸の思いが窺える。

クリスマスツリーにつけてみました。その様子を見るにはここをクリック

まあ、ウチの店で、クリスマス用のディスプレイとして使うなら、「部屋の大きさ」としても充分と思っていたのだが、私がスイッチを入れない限り、店員たちはスイッチを入れようとしない。店員同士のコミュニケーションの妨げ、電話の応対の際に気になるのだろうか?はたまた、金属製の硬音を長く聞き続けると、精神衛生上好ましい状態ではなくなるのか?どこまでも疎まれるオーナメントなのだろう。

それでも私はこの人形たちを動かすメカが好きなのだ。逆向きの電流を流すだけで反対側の鐘を叩くために人形が回転すると言うローテックな割りに、そのタイミングを取る難しさや、叩いた後に棒が鐘と触れ合わないようにする工夫など、本当に良く出来ているのだ。鐘だって、大きさは見た目が一緒なので、鐘の厚みや締め付け方で精密に調律されているのだ。

逆に言えば、それこそが製造コストを吊り上げていると言っても過言ではない。ディズニーキャラを使ったバンド物といえば、最近では「クマのプーさんのコンボ」があるらしいが、これはCDプレイヤーである。キャラクター人形は演奏内容と無関係にユラユラと動くだけだ。ただ、製造コストの事だけを考えるならば、今後はこういう方向に向かっていくのだろう。音楽データも、今後はMP3やWMF形式で本体への出し入れをしやすくしていくのだろう。

まあ、ハンドチャイムはただでさえ難しいのである。それを機械制御しようというのは、なかなか骨の折れる作業だろう。このオーナメントの製造が中止されたのは、無理もない事と思える。それゆえに、非常に貴重なものを譲ってもらえたわけなのだ。大切に扱わなくてはならない。