転身

クリスマス・パーティーの後、壊れてしまったサンタ・クロースの衣装のファスナー。ファミリーのリーダー(フェロー)に直せないかどうか聞いてみたのだ。

まあ、彼女にしてみれば、パーティーを盛り上げてもらった事に、多少なりとも義理を感じていたのだろう。快諾とはいえないまでも「直してみようか?」みたいな事は言ってもらえた。でも、その様子には、「え〜私がぁ〜」光線が発せられていたし、実際、裁縫については「苦手だ」と言っていたのだから無理強いは出来ない。

そんな失望感を抱きながら配達をしていると、天恵というものは突然訪れるものである。

以前、街の大通りに面した飲み屋だった店が、今は閉店していて、かけはぎや衣類のリフォームをする店に変わっていた。

このお店、以前、飲みに来たことがある。10年ぐらい前だったろうか、越後もち豚を小さな卓上用の七輪で網焼きしながら食べさせる店だった。炭火の網焼きだったから、表面はカリカリ、中身は肉汁たっぷりで、しかも余分な脂肪は煙になってしまうと言うヤツ。本当に肉と言うよりは餅でも食べているかのように、スイスイ口の中に入っていく。

それをジョッキごと冷やした生ビール(正しいビールの飲み方ではないらしいけど上手い)や佐渡の銘酒「北雪」などで流し込むものだから、酒量も平らげる肉の量もぐんぐん上がる。

また飲みにいきたい店だったのだが、ある日突然、閉店の貼り紙が……聞くところによれば、お店の人が脳梗塞で倒れたとか……?

マスターには随分サービスしてもらったので、とても残念だと思っていたのだが、私がその衣類のリフォーム店の戸を開けて入ってみたら、なんとリフォームの作業をしていたのは、私が倒れたとばかり思っていたマスターだった。

と言う事は、倒れたのはマスターではなくて、一緒にお店をやっていた奥さんだったと言うわけだ。

昔、大論争になった「私、作る人、僕、食べる人」などというジェンダーの問題に触れるわけではないとは思うが、脳梗塞と言う病気には男女の差別無くかかる恐れがあることは認識しなければならない。ましてや、「裁縫などと言う仕事は女のものである」などと言うつもりも無い。

ただ、今でも、マスターの料理の腕前そのものは健在にしても、お店の切り盛りに関しては、奥さんの存在があまりにも大きかったのだろうと推測するしかないのである。

衣装のファスナー交換をお願いしたのだが、経済的には繁栄を極める某国製の衣類には、非常に粗末なファスナーが使われている上に、その縫い付け部分も脆弱極まりないために、充分な作業が出来るかどうか分からないが、やってみようと言ってくれた。預り書の名前を見て、以前、私が飲みに来たことを覚えていてくれた。

それにしても、マスターの転身は意外と言うしかない。料理人といえば職人である。その職人が、貢献度の高かった奥さんが倒れたからと言って、針仕事に転身するというのは、私の想定の範囲外だった。喩え、手先の器用な人だったとしてもである。

さて、今年も今日でもう終りです。皆さん、コメントしてくれた人も、してくれなかった人も含めて、読んでくれてありがとうございます。また来年もよろしくお願いします。

それでは、良いお年をお迎えください。では、また来年。