カヌー初体験

7月の最後の日曜日、新発田市の内之倉ダム湖畔公園でカヌーを漕いで遊びました。私と一緒に行ったのは、らっきー&ねんじ一家5人と、彼らの新しい家族・韓国から来た女の子ジソンの計7人。彼らをカヌーに誘ったのは私でしたが、実は、私もカヌーに乗るのは初めてでした。

なにはともあれ乗船・出航、しかし、なかなかまっすぐ進みません。後で気がついたのですが、ただ漕ぐだけではまっすぐ進みません。特に、体から離れたところを漕ぐと、曲がってしまうようです。
まっすぐに進むには、体のすぐわきの水の前方にパドルのブレードを直角に入れて、まっすぐ後ろに漕がなければなりません。ブレードが斜めになっていると、力が斜めにかかるので曲がります。パドルを弾く時に、不必要に体を傾けてもいけません。むしろ、バランスをとるような感じで下半身を踏ん張らせるべきでしょうか?

本来のカヌー教室では、陸上でこの辺のところを厳しく仕込まれて、げんなりするのですが、このカヌー体験会は、ひたすら楽しもうという趣旨なので、この辺がメチャ甘です。そのせいか、我々以外も、みんな、自分の意志とは別に、フィギュアスケートのようにくるくるとスピンしています。

また、カヌーと言うと、激流下りを予想しがちですが、この日はダム湖の貯水池でやったので、怖いという感じは全然しませんでした。ところが、この日は異常なほど気温が高くて、午前中だけでバテバテでした。いくら日差しが強くとも、日傘をさして、カヌーに乗るわけにはいきません。

午後は、カヌーを利用したオリエンテーリング、カヌー・オリエンテーリング。元気いっぱいの子供たちに引っ張られて、らっきー親子5人が参加、見ると、一隻だけカヌーがあいているので、私とジソンも参加することになりました。実は、何もしないで2人でいると、何か話さなくては間が持たないし、かと言って、そんな場面で何を話せばいいのか困ってしまうので、参加することにしたわけです。結果的に、お互い、その方が良かったと思います。

我々が出航した直後に、オリエンテーリングが始まりました。午前中より、多少なりともカヌーをコントロールできるようにはなっていた……はずだったのですが、相変わらず、無用のスピンやローリングをしてしまいます。

ここで、このカヌーオリエンテーリングのルールを説明します。
湖に4つのチェックポイントがあります。2つは、杭につながれて固定された桶のポイント。残り2つは、無人のカヌーで、それぞれのポイントには黒いカプセルと透明なカプセルが複数入っています。
カプセルには、それぞれ折りたたまれた紙が入っており、外からは内容がわかりません。
ただ、この紙にはこのゲームの勝敗を決めるポイントが記載されていることだけはわかっています。
黒いカプセルには、それぞれ10点、5点、3点、1点のポイントが、透明のカプセルには、12点とマイナス12点のポイントが入っています。
このカプセルをとにかく3つ集めた合計ポイントが得点となるわけです。
一か所のポイントで3つ取ってもOKですが、高得点は望めないかもしれません。
理論値36点への魅力が複数ポイントへのアクセスへと駆り立てます。

急造コンビの私とジソンが、軽快にチェック・ポイントを駆け巡るわけにはいきません。カヌーをコントロールしながら、ゆっくりと一つの固定チェックポイントへ近づいて行くと、すでに10隻以上のカヌーがごった返して、身動きが取れなくなっています。さながら、「壇ノ浦の合戦」という表現がなじみます。弁慶の体型の私には、義経のような「八艘跳び」は望めません。

でも、注意深く後ろから見ると、込み合っているのはチェックポイントの一方からで、反対側から近付けば、チェック・ポイントへの接舷は意外に難しそうでもありません。まだまだ、無駄なロールやスピンはするものの、大分コントロールできるようになってきていることに気がつきます。

思ったよりも早く、最初のチェック・ポイントに接舷成功。ジソンが日本語で「いくつ」と聞いてくるので、「2つ」と日本語で返します。コミュニケーションに問題のあるこの2人で、3か所のポイントに接舷するのは無理と判断した結論です。

隣のチェック・ポイントは、無人のカヌーでした。むやみにたくさんのカヌーが近寄ると、カヌーでカヌーを突き飛ばすことになり、ポイントに近寄れません。他のカヌーの動きをみて、早目に回り込んで方向転換しておいたら、予想通りに無人カヌーの方から、こちらに近寄ってきました。素早く手を伸ばしたジソンがカプセルをつかみました。これで3つ。もう充分です。

ジソンが、「どうするの?」みたいに振り返ってきます。
「あれ、韓国語で”帰る”って、どういうんだっけ?」とっさに浮かんできたのがカエル=ケグリという駄洒落。でも、これが通用するのは、相手が日本人の時。ウケないし、意味なし。Hippoの韓国語版のCDのあちこちを思い出しながら、「帰る」意思を伝える言葉を探しました。ひとつ思い当った言葉がありました。でも、これを使ったら、笑われてしまうこと必定。

ジソンがもう一度、「どうするの?」と振り向いてきます。何も言わずに、方向転換して帰って行ってもいいのですが、それでは気まずい思いが残ってしまいます。意を決して、例の言葉を口にしました。

「ネッチベカゴシッポヨ!」口にすると同時に、大きく方向転換して、ゴール地点を目指しました。前には、身をかがめて笑いこけているジソンの姿があります。そりゃ笑うでしょ。50歳のおっさんが「お家に帰りた〜い」っていきなり言ったら。でも、たとえ50歳でも、私は、「韓国語の言葉の赤ちゃん」な訳ですから、こうなっても仕方ないんです。

上陸前、私を振り返ったジソンは、カメラを取り出して頭上に掲げ、上から自分に向けて構えて、画角の中に「あなたも入って」と身振りで示してくれました。その写真、まだ私は見ていませんが、見せてもらったらっきーによれば、ふだん私が見せたことがない笑顔が映ってたそうです。(眼鏡ごと覆ってしまうサングラスをかけていた私でしたが、あんなのでどうやって笑顔ってわかったんだろう?)

考えてみれば、言葉を覚えたての子供って、その言葉を使うシチュエーションまでは詳しく理解できてないから、ついついおかしな場面で頓珍漢な言葉を使って、大人たちを笑わせてくれますが、それだけじゃなくて、他の言い方を知らないので、とりあえずの意思表示のために、あえて違うとわかっていても、「これが一番近い言い方かな?」みたいな使い方もするんじゃないかな?そして、そこからが会話の始まりというか、それがきっかけでお互いの距離感がぐっと近くなるのだなと思いました。