顔色の色

みんな、「顔色が悪い」と言う時、どんな色を想像しているだろうか?
「青い顔」とか「顔色が真っ青だよ」などと言うぐらいだから、当然「青」だと答える人は多いだろう。(私個人的には、唇が紫色っぽくなるので「紫」と思う)
でもみんな、サッカー日本代表のジャージの色みたいな顔いろの人を見たことがるだろうか?

おそらく、そんな人はいまい。
(最近「ブルーメン」などと青いどうらんを塗りたくったタレント集団がいるらしいが、それは除く)

ただ、日本人が「青」を口にした時、必ずしもブルーを意味しているとは限らない。
これについては後で述べよう。

なぜこんなことを言い出すかと言うと、先日、テレビで「Cool Japan」という番組を見た。
その日は、過去のハイライトを放送していたので、本編はかなり以前に放送されていたと思うのだが、世界各国の人に、「顔色が悪い」と言う時に想像する色を言ってもらうと、圧倒的に多いのが「緑色」なのだ。日本人の考える「青」は少数派と言うことになる。

一部の欧州人では、「黄色」と思う人もいるようだ。これは、肝臓などを痛めた人などは、特にそう見えるわけで、日本でもそう思う人は多いと思う。

面白いのは、アフリカの黒い肌の人たちは、具合が悪くなると「灰色」に見えるという。「白人に近くなったよ」などと発言して笑いを誘っていた。これは、競馬をやってる人なら、感覚的にわかるかもしれない。黒鹿毛馬が好調な時、全身が赤みを帯びて黒い色がつややかに感じるものだ。その逆は、くすんで見えるから灰色っぽく見えるわけで、完全に白くなりきる前の葦毛馬は、いつも艶がよく見えないという。

ゲストで参加していた荒俣宏氏は、欧州は「緑」と感じる人は多いのではないかという例で、「フランケンシュタインの怪人」の顔色が緑色ではないかと言っていたのが印象的だった。(フランケンシュタインは、死人を蘇らせた博士の名前で、蘇った怪人そのものの名前ではない)

さて、私は日本人の「青」の感覚に、少々疑問を持つ。日本人が「青」と言う時、「緑」のことを言っていることがままある。代表的なのは、「緑色に見えるはずの青信号」である。これは、レンズの色は確かに「青」なのかもしれないが、後ろで光る白熱灯がやや黄色みがかっているので緑色に見えるのだが、作った側が「青」と言い張るのと、日本人が緑色を「青」と言う感覚とマッチした例と言える。

やや卑近な例だが、私が夏場にアイスクリームを売っている時、年配の方々が「青いアイスをください」と言う。その場合、たとえ、「ブルーハワイ」と言う真っ青な色のアイスクリームを売っていても、「緑色のメロンシャーベット」の意味なのだ。私が、そのお客に「青というと、こちらのブルーハワイでしょうか?」と聞き返すと、「いやいや、そっちの青い方だ」と「緑色のシャーベット」を指差す。じゃあ、「青いブルーハワイは何色なのだろうか?」と思っていると、「そのブルーの方をください」と、言う人がかなりいる。なんで、ここだけ英語なのだろう?と、かなり不思議な体験をする。

子供のころの私が最初に海水浴に行った時、「青い海」と聞いていたのに、目の前に広がっていたのは「緑色の海」だった記憶がある。これは、その当時、日本は経済成長期に入っており、そのせいか海の色はかなりくすんでいたせいもあると思う。それでも、緑色の葉っぱを「青葉」と言う例をみると、やはり日本人の感覚の「青」は、伝統的に「緑」を意味することが多いのだと思う。

そもそも色と言うのは、さまざまな色が混じりあっているものらしい。「青」は色の三要素にも、光の三要素にも含まれており、単独で「青」を表現できる色ではあるものの、「紫に近い青」から「緑に近い青」まで様々な青が存在し、その言葉が意味する守備範囲はかなり広い。

人の肌も「肌色」と言うが、肌の色も民族によって様々だ。しかも、同じ人物の肌であっても、部位によっていろんな色に見える。「美白」と言われたあるモデルさんのヌード写真を見た時、その人の乳房には、気がつくと様々な色の血管が走っている。「美白」と言われた彼女の肌の色だからこそ、そんなに様々な色が見えるのだけど、その中に緑色の血管も見える。赤い血が流れているはずなのに、緑色に見えるのって、子供のころから、かなり不思議だった。

古の昔より、日本人の女性に対する価値観は、「美人薄命」とか「色白」が尊ばれていたが、逆に健康色というと「色黒」な人で、伝統的な価値観からすると、本来ならば「美人」という範疇に入らない人たちだ。でも、裸になって前にいると、どちらにも魅力を感じるのだから、感覚というものはいい加減なものだ。世の中にあふれるヌード写真には、「美白」の方々のものに加えて「小麦色の肌」の方々の写真も相当数ある。そういう人たちの肌を見ると、血管の色は見えにくい。無論、「緑色の血管」など見えはしない。

思うに、健康色を失ったとき、肌は白み(あるいは黄色み)を増し、緑色の血管の色が目立ち始める。そんな時、人は顔色が悪くなったのだと思うのだと思う。