ストリート・ファッション・デザイナー日本代表に快哉

「いい年をしたおっさんが……」と思われるかもしれないが、毎週土曜の夜の放送されるNHKの「東京カワイイTV」を楽しみにしている。言うまでもないが、自分は、およそファッションというものに無関心だし、あそこで紹介されている服が着てみたいわけじゃない。また、あれを着ている女の子が、自分のタイプなどとは、決して思ってもいない。自分はむしろ、ほかの人たちと同様に、ごく普通の装いをした人が好みだ。ゴスロリの女性が目の前に現れたら、申し訳ないが、腰が引けてしまうと思う。

ならば、なぜ、ああいう番組を楽しみにするのかというと、日本人が考案したああいったデザインの衣類・装飾品が海外で受けているからだ。まあ、彼らデザイナーたちは、サッカーで言う日本代表なのだと思っているわけだ。

15日放送の番組では、その彼らから選ばれたメンバーがパリに出かけて、ショーを企画するという内容だった。ショーに先立って、彼らは自らの作品を携えて、パリのブランド・ショップやセレクト・ショップに売り込みに行くのだが、当然のことながら、だれにも相手にしてもらえない。シップの人たちが言うには、「名のあるコレクションのショーで、著名な評論家・デザイナー・バイヤーたちの好評を得たものでなければ、パリでは売れない」という。しかも、現在パリで売れているのは、「すっきりしたデザインで、機能的な服である」との事である。そういう点からすれば、彼らのデザインしたものは、すべてそのセオリーに反したものであり、彼らの立場は、超アウェイ状態であるということだ。

たぶん、こんなことはもうすでにパリに行く前から、彼ら自身が知っていたことだと思う。知っていながら、堂々と乗り込んでいった彼らも、まったくの丸腰と言ったわけではないし、かと言って、パリに行ったことを自慢しようと、単なる物見遊山で行ったわけでもない。

彼らには、原宿や渋谷に集う若者以外にも自分たちを支持してくれる人たちがいるという手ごたえを感じていたのだろう。インターネットを通じて、商品を買ってくれる人たちが、全世界にいるという手ごたえもつかんでいた。そして、欧州でもコミケのようなイベントを開催されれば、欧州中から人が集まり、数百ユーロものお金を使って帰っていく事実を、しかも、そのマーケットに出店しているのは、日本人よりもアジア各地から出かけて行って、チャンスをものにしようとしているという事実を彼らを応援しているNHKの人たちも掴んでいたのだと思う。

そう考えると、私は昔から腑に落ちない疑問を感じていたことがあったことに気が付く。「来年の春は、××色の服や口紅が流行する」などということが、売ってもみないうちからメディアを通じて喧伝されていることである。なんでも、世界の主だった服飾・化粧品メーカーやデザイナー、そして染料メーカーの人たちまでもが合議して、このような流行が作られるのだという。

なにも、癒着だとか、世界的談合だとか、青臭いことを言おうというのではないし、そこで決められた色や様式で多くの服飾品が作られれば無駄がないということも理解しているつもりだが、「本当に自分の着たい服を選ぶのは、やはり自分ではないのだろうか?」という基本的な事実に立ち返りたくなる。そんな気持ちは、我らがストリート・ファッションのデザイナー日本代表たちも持っていたのだと思う。

彼らの懸命なPR活動もむなしく、有名ブランドのファッションショーに集う、大物デザイナー、評論家、メディア編集者からは無視されたり、一度出席をOKしておきながらのキャンセルが相次いだというが、なんとか体裁がつく程度に集まったメディア関係者たちに、我らが日本代表たちは言い放ったのだ。

「パリでは、ランウェイ(ファッションショーでモデルが歩く通路)で流行が作られるが、日本ではストリートで実際に着る人間が、自分の服を選んでいる事実を知らせにきた」「もし、それが欧州の常識であるというなら、我々は、それを壊しに来た」

即興で口から出た言葉ではないことは明らかで、おそらく行く前から、練りに練って発言しようと決め、番組のために発言したことだと思う。それでも、欧州のメディア関係者の前で実際に発言され、それが取り上げられた事は軽視出来ないことだと思う。